SuperH RISC engine  
 
RENESAS
 
System Solution
SuperHマイコンが洗濯機をきめ細かく制御
日立アプライアンスは、洗濯機を始めとする家電市場のリーディングカンパニーである。
洗濯機には、短い時間と少ない水量で、騒音を出さずに衣類をきれいに洗浄、脱水することが求められる。水流を作るモーター制御技術の進化が欠かせない。洗濯機が要求する高度なモーター制御の実現に寄与したのが、SuperHマイコンである。
日立アプライアンスの開発エンジニアとルネサスの担当者に、洗濯機とマイコンの関わりや今後の展望などを語っていただいた。(文中敬称略)
 
 

日立アプライアンス株式会社
家電事業部 多賀家電本部 電子制御設計部
ソフト設計グループ 主任技師
川又 光久 氏

株式会社ルネサス テクノロジ
汎用製品統括本部 マイコン事業部
MCU製品技術部 主任技師
毛利 裕二 氏
協栄産業株式会社
日立営業所 所長
中川 立夫 氏
―本日はよろしくお願いいたします。

川又(日立アプライアンス) 
日立アプライアンス家電事業部多賀家電本部の川又です。洗濯機や掃除機、ポンプなどのモーターを制御するソフトウエアを開発しています。

毛利(ルネサス テクノロジ)
ルネサス テクノロジの毛利です。SH-1コアおよびSH-2コア、SH-2Aコアのシングルチップマイコンすべての製品企画と技術サポートを担当しています。

中川(協栄産業)
ルネサスの特約店である協栄産業日立営業所の中川です。日立営業所は茨城県全域、特に水戸から日立の間の地域で営業を担当しております。この地域ですと、担当するお客様は日立グループとなります。

マイコンが洗濯機のモーター制御を変えた
―家庭用の洗濯機にマイコンが入り始めたのはいつごろでしょうか。
川又(日立アプライアンス)
28年前、二漕式洗濯機の時代です。これまで使われていたダイヤル式タイマーの換わりに、マイコンのタイマーを採用しました。日立製作所の4ビットマイコン「HD38750」を搭載しました。これが日立で初めてのマイコン洗濯機になります。ここから4ビットマイコンの採用が進み、20年ほど前には全自動洗濯機が登場しました。
1993年ころには、8ビットマイコンに切り換わりました。これも日立のマイコン「H8/300Lシリーズ」です。役割は4ビットマイコンとあまり換わらないのですが、価格が4ビット並みに下がってきたことと、使い勝手が4ビットよりもずっと良くなったので変更しました。
毛利(ルネサス テクノロジ)
「H8/300L」は私がかつて担当したマイコンなので、想い出深いです(笑)。当時の4ビットマイコンは使いこなしにある程度の知識が必要でした。8ビットマイコンの「H8」は使い勝手を高めつつ、周辺のコアは4ビットとほぼ同じものを搭載しました。4ビットのお客様にとっては8ビットに移行しやすく、しかも新しくマイコンを採用しようとするお客様にとっては使いやすいマイコンになりました。
―16ビットマイコンの導入はいつごろですか。

川又(日立アプライアンス)
1998年に16ビットマイコンを導入しました。ブラシレスDCモーターをインバータ制御(注1)するためです。インバータ制御は高速な処理を要求しますので、16ビットマイコンが必要になりました。採用したのは日立の「H8/300Hシリーズ(H8/3032グループ)」です。インバータ制御が登場するまでは、洗濯槽のパルセーター(注2)を回転させるモーターにインダクション(誘導)モーターを使っていました。これがブラシレスDCモーターに換わることにより、モーターが小さくて大出力になり、しかも消費電力が下がりました。また、誘導モーターに比べるとブラシレスDCモーターは回転速度を簡単に変更できるので、パルセーターの動きを細かく制御できるようになりました。この結果、洗濯や脱水などの性能が格段に向上しました。

図1:洗濯乾燥機制御のブロック図
洗濯乾燥機制御のブロック図
―16ビットマイコンから32ビットマイコンに移行したのはなぜでしょうか。

川又(日立アプライアンス) 
センサーレス制御のためです。それまでは、ブラシレスDCモーターの回転子の位置を検出するセンサー(ホール素子)を使っていました。ところがセンサーの検出誤差によって回転トルクの変動が起こり、騒音となっていたのです。そこでセンサーを省き、センサー素子のコストを減らすとともに騒音を抑えることにしました。
センサーレス制御では、モーターの直流電流をシャント抵抗で検出し、モーターを駆動する電流(3相電流)をマイコンで再現します。位置センサーを使った制御に比べるとマイコンに要求される演算処理性能が格段に高くなるため、32ビットマイコンが必要になりました。そこでSH-2コアの32ビットSuperHマイコン「SH7106」を洗濯機に搭載しました。これが2005年のことです。

―国内では洗濯機の方式自体に変化はあったのでしょうか。

川又(日立アプライアンス) 
従来はうずまき式と呼ばれる方式が主流でした。モーターでパルセーターを回し、衣類をからませながらこすり洗う方式です。その後ドラム式が出ましたが、衣類が多くなると洗浄力が落ちるという問題がありました。われわれは、うずまき式とドラム式の良いところを組み合わせたビート式と呼ぶ新しい洗濯の方式を開発しました。洗浄力が高く、消費する水量が少ない方式です。ビートウィングと呼ぶ回転翼をモーターで回し、衣類を上下に大きく動かすとともに、水流を循環させて効果的に洗浄します。32ビットマイコン「SH7106」によるセンサーレス制御を初めて採用した洗濯乾燥機「BW-DV9F」にも、ビート式が使われています。

図2:洗濯機における洗浄方式の比較。うずまき式、ドラム式、ビート式がある。ビート式は最新の方式。
洗浄方式の比較

―位置センサーなしでモーターを制御することは簡単ではなさそうですが。

川又(日立アプライアンス) 
洗濯機のモーターには、回転方向が二通りあります。正回転と逆回転です。センサーレスでモーターの回転方向を変える制御は初めてでしたので、かなり大変でした。
毛利(ルネサス テクノロジ)
相当に難しい制御になりますので開発当初は、洗濯機でセンサーレス制御が本当にできるのだろうかという気持ちがありました。エアコンや冷蔵庫などのインバータ制御では、モーターの回転方向は一つですし、外乱がほとんどありません。ところが洗濯機ではモーターの回転方向が変わりますし、洗濯する衣類の動きや水流の動きなどが外乱要因となります。さらに、モーターの回転速度が低くなると、検出する電流も低くなります。すると信号対雑音の比率が小さくなり、回転子の位置推定が難しくなるのです。

川又(日立アプライアンス) 
このあたりの問題はソフトウエアで解決していますが、詳しい内容はノウハウということで(笑)。

 
フラッシュマイコンを全面的に採用

―最新の洗濯乾燥機「BW-D9GV」にもSuperHマイコンが採用されています。SH-2コアを内蔵したフラッシュメモリ内蔵マイコン(フラッシュマイコン)「SH7125」ですね。

川又(日立アプライアンス) 
フラッシュマイコンでモーター制御に適した仕様であることと、価格がマスクROM内蔵マイコンにかなり近いことから、採用を決めました。われわれの要求にぴったり合致したことが、「SH7125」を採用した大きな理由です。すこし話題がずれますが、洗濯機に限らず、多賀家電本部では全製品のマイコンにフラッシュマイコンを使う方針になっています。開発期間を短縮するためです。マスクROM内蔵マイコンですとマスクを発注してからマイコンが納品されるまでに1〜2カ月間を待たなければなりません。フラッシュマイコンを使えば、この期間がゼロになりますし、量産を始める間際までソフトウエアをデバッグできます。
中川(協栄産業)
フラッシュマイコンですとソフトウエアの変更で複数の機種に対応できますので、マイコンの在庫管理がすごく楽になります。需要の変動に対するリスクが大幅に低くなりますし、仕掛かり品がなくなり、流通コストを削減できます。
毛利(ルネサス テクノロジ)
前機種にご採用いただいた「SH7106」はマスクROM内蔵品でした。今回の「SH7125」ではSuperHマイコンとしては初めて、フラッシュメモリ内蔵品だけに特化した製品です。小型パッケージ品のシリーズ「Tiny」のSuperHマイコン版である「SH/Tiny」の最初の製品でもあります。

―SuperHマイコン「SH7125」は、従来品種の「SH7106」とはどのような点が違うのでしょうか。

毛利(ルネサス テクノロジ)
モーター制御用のマイコンには、インバータへのPWM(pulse witdh modulation)タイマー出力、高速のアナログデジタル(A-D)変換器、高い演算能力の三つの機能が要求されます。A-D変換器で取り込んだ入力をCPUで高速に演算処理し、PWMタイマー出力にフィードバックするという流れです。この点は「SH7125」と「SH7106」で変わりません。
「SH7125」で大きく違うのは、A-D変換器を動かすトリガー信号をマイコン内部で発生させる機能を備えたことです。任意のタイミングで、A-D変換器を動かせるようになりました。

―「SH7125」のように新しく開発された製品ですと、どのくらいの数量のマイコンがいつ納品されるかが気になりませんか。

川又(日立アプライアンス)
その点は非常に心配でした。協栄産業さんに多大なご協力をいただいています。ルネサスさんとやり取りしていただいて、洗濯機の量産に間に合うようにマイコンを納品していだきました。量産計画にしても固定しているわけではなく、生産の立ち上り時期では計画の変動が常にあります。日々の変化をきちんとお伝えできたことがありがたかった。

中川(協栄産業)
ほぼ毎日、多賀家電本部には足を運んでいます。お客様の声をじかにお聞きしてそれをルネサスさんにお届けすることが大切です。最近では電子メールや携帯電話機などの便利な連絡ツールがあります。しかしこれらのツールですと、肝心のニュアンスが伝わりにくいのです。

―洗濯機用マイコンへの要望や今後についてお聞かせください。

川又(日立アプライアンス)
二つの要望があります。一つは、メインコントローラとモーターコントローラをまとめてしまえるようなマイコンです。もう一つは、データ格納用のEEPROMを搭載したフラッシュマイコンです。
毛利(ルネサス テクノロジ)
お客様のご要望をきっちりと伺いながら、次期製品の企画に活かしていきたいと考えています。新しく開発したCPUコア「SH-2A」は、同じ動作周波数でSH-2コアの1.5〜1.8倍の性能が出ています。SH-2Aコア内蔵のマイコン製品は今のところハイエンド品だけですが、今後はローエンドへも展開していきますのでご期待ください。

―本日はお忙しいなかをどうもありがとうございました。

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(注1)インバータ制御:インバータでモータを制御する意味で使われることが多い。インバータとは、直流電源から任意の周波数の交流電力を発生させる回路のこと。家電製品では洗濯機やエアコン、冷蔵庫などにインバータ制御が採用されている。商用の100V交流電源を一度整流して直流電源に変換し、それからインバータを介して交流電力を発生し、モータを駆動する。
 
(注2)パルセーター:回転翼とも洗濯羽根とも呼ぶ。うずまき式洗濯機の洗濯槽底部に配置されており、回転して洗濯槽の水をかくはんする。
 
BW-D9GV
photo1:洗濯乾燥機「BW-D9GV」の外観。モーター制御用マイコンにSuperHマイコン「SH7125」を採用した
 
ビートウィング
photo2:ビート式の改良。前機種「BW-DV9F」のビートウィング(回転翼)に小刻みに衣類を動かす「ミニウィング」を4個所、新たに設けた。
 
モーター制御基板の外観
photo3:モーター制御基板の外観