■フラクタルのご研究は、武田先生と同じ信州大学理学部で統計力学を研究しておられる本田勝也教授との雑談がきっかけだと聞いております。
武田:本田先生は名古屋大学で私と同じ応用物理を研究していた先輩ですから、いろいろなことを普段から話しています。フラクタルの話題が出たのは、入学試験の試験監督控室でお昼の弁当を食べながら雑談していたときです。本田先生からフラクタルという構造があるのだけど、実験をしてみないかと持ちかけられました。本田先生は統計力学がご専門です。フラクタルの教科書を著しており、その教科書を控室に持ってきまして、教科書をめくりながら、「フラクタルにはさまざまな構造があるのだけれども面白いのは何かないか」とたずねられました。そうしたらメンジャースポンジと呼ぶ立体構造(p.1写真)が私の目にとまりまして、これなら何か出そうかなと思いました。
■しかし実際に実験を始めるまでには約2年の歳月を要したそうですね。
武田:当時は電磁波ではなくて、弾性波(音波)の実験をお願いされていたため、2年間くらい手をつけなかったのです。弾性波を励起するためにメンジャースポンジと呼ぶ立体構造の全体を揺らしたいのですが、これがすごく難しくて、良い方法を思い付かなかったからです。ところがあるとき、電磁波を全体に照射してやれば、立体構造を振動させられそうだと気付きました。でも3次元の複雑な構造物を作ることは、一般には非常に難しいのです。
しかし幸いなことに、セラミックスの研究者である大阪大学接合科学研究所の宮本欽生教授と桐原聡秀助手のグループが、3次元構造を作れる光造形装置を持っておられました。両先生とはフォトニック結晶の国際会議でお会いして以来、共同研究をしていましたので、製作をお願いできないかと考えました。急いでメンジャースポンジの図面と信州の地酒を持って大阪大学を訪れました。桐原先生は「これならすぐ作れますよ」と、すぐにメンジャースポンジを作っていただきました。 |
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■当時の実験を振り返ってください。
武田:宮本先生のところでマイクロ波領域で実験したところ、それらしき結果を得ました。しかし最初は、勘違いしていたのです。弾性的な励起状態を捉えたと思い、それでずっと喜んでいたのですよ。それが、よく考えてみたらメンジャースポンジはエポキシ樹脂製ですから、そんなに高い周波数で振動するはずがない。測定では10GHz近いところにシグナルがあるんです。それで電磁波が閉じ込められていることによるシグナルだという推論に達しました。
でも計算による証明が出るまでは不安でしたね。最近になって迫田和彰先生による計算でも定性的にはほぼ同様な結果を得ましたので、電磁波が局在していることが確実になりました。1年間ほど、迫田先生はスーパーコンピュータを使って計算をなさっていたのです。2004年の夏に、電磁波が非常にきれいに閉じ込められているパターンをいくつか得ました。それでようやく、ほっとできました。
■電磁波を閉じ込めるフラクタルということで「フォトニックフラクタル」と名付けられました。学会ではどのように評価されましたか。
武田:国際学会で発表したところ、反応は両極端に分かれました。フォトニック結晶の研究者からは、それほど高く評価されなかったようです。フォトニック結晶の「亜流」だと。一方、フラクタルの研究者や数学者の方は、非常に面白いと評価してくださいました。
■今後、どのような分野への応用が考えられますか。
武田:宮本先生のグループといっしょに、フォトニックフラクタルの応用を目指した研究会を発足させました。現在では約15社の企業が参加しています。具体的な応用となるとまだ難しいのですが、電磁波吸収体やアンテナの効率を上げられるので、マイクロ波発振器にはすぐにでも使えると考えています。
■電子デバイスへの応用はいかがでしょうか。
武田:一番面白いと思っているのは、原子の配列がフラクタル構造になったとき、電子のふるまいがどうなるかです。何かに埋め込むことによってこういった構造が作れれば、面白い電子デバイスが実現できるのではないかと思います。 |